2014年1月28日

Dr.Harukiのハモンド講座(その1)

さて、僕は「HAMMOND SK1」という極限までコンパクト化されたハモンド・オルガンを買った訳だけれど、「小さい」と言っても、鍵盤数が少ないとか、鍵盤のサイズが小さいとかいう訳ではないことを、下の写真で確認して貰おう。
上がSK1、下が今まで使っていたVK8だ。


SK1は、ハモンド・オルガンの発音体をビンテージのB-3をサンプリングした音源に置き換えた楽器で、「クローン・ホイール・オルガン」という分類になる。
以前使っていたVK8も同じ「クローン・ホイール」だ。

下の写真は上がSK1のドローバー、下がVK8のドローバーだが、このハモンドの心臓部とも言える部分の説明から始めよう。


ドローバーというのは全部で9本あって、この部分で鍵盤を弾いた時に出す音を決める。
向こう側に押し込んだ状態の音量は0で、手前いっぱいに引くと最大音量となる。

写真のように、SK1の場合は手前のラベルに、VK8の場合はバーの前面に、左から順番に[16],[5と1/3],[8],[4],[2と2/3],[2],[1と3/5],[1と1/3],[1]という怪しげな数字が書かれているがわかると思う。

この数字はフィート数で、パイプ・オルガンのパイプの長さを示している。
初めての人は、数字が意味不明な上に「白・黒・茶」の色の並び方が不規則だと思うかも知れないけれど、それぞれのパイプが、基準音[8]の何倍の周波数で鳴るのかを考えるとすっきりする。
パイプの長さがn倍になれば周波数はn分の1になる訳なので、下の表のようになる。


たとえば[5と1/3]のバーだけを引いて「ド」の鍵盤を押すと、5度上の「ソ」の音が出るのだ。
あるいは[1と3/5]のバーだけを引いて「ド」の鍵盤を押すと、2オクターブ上の「ミ」の音が出る。

このように、ハモンドというのは「ド」の鍵盤を弾いた時に、「ソ(5度)」や「ミ(長3度)」の音を出せる楽器だと解って貰えたと思う。
左側の2本を除いて、単純にオクターブの音を出すバーが白色、5度や3度の音(つまり押した鍵盤以外の音)を出すバーが黒色で、理にかなった色の付け方がされているのも解って貰えたと思う。

ギター等は、1本の弦を弾いた時、その音だけではなくオクターブや5度の倍音が一緒に出ていて、ハモンドはそれをドローバーによって合成しようとした楽器なのだ。

ところがこの先、少し複雑な話をしなければならない。

たとえば[5と1/3]のバーはフィート数に従えば1.5倍の周波数、つまり「純正律のソ」が出なければ道理に合わない訳だが、実際には[8]のバーを引き出して「ソ」を弾いた時の音、つまり「平均律のソ」(2の12分の7乗=約1.498307倍の周波数)の音が鳴る。長3度の音についても同様だ。
ハモンドというのは「平均律の倍音が鳴る」という世にも不思議な楽器なのだ。

純正律と平均律の違いを知らない人も多いけれど、簡単に言うと、ギターの7フレットをハーモニクスで出した音が1.5倍の周波数の音(純正律)で、7フレットを押さえて弾いた音が1.498307倍の周波数の音(平均律)という感じだ。

さて、ここまでで何か気付かないだろうか?
ドローバーを全部引き出して1本の鍵盤を押すと1オクターブ下から3オクターブ上までの音が出るというのは理解して貰えたと思う。
となると、ハモンドは61鍵なので音域はたった5オクターブだけれど、実際に出る音は一番低い鍵盤より1オクターブ下の音から一番高い鍵盤の3オクターブ上まで、実に9オクターブの音域をカバーすることになる。

88鍵のピアノでさえ7オクターブちょっとの音域なので、ピアノの音域を遙かに越えて、人間が音程として捉えられる範囲を越えて音が出ることになるのだ。

しかし、一体どうやってそんな音を出しているのだろうか?
その疑問の答えは次回!(次回があるのか?)

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