2014年2月19日

Dr.Harukiのハモンド講座(その2)

前回の講座で、「ハモンド・オルガンは人間が音程として捉えられる範囲を越えて音が出ることになる」と書いた。
どういうことなのか説明するために、まず「音の高さ」について、最近出番のないヤマハCPの写真を使って説明しよう。


一番左の鍵盤は[ラ]で、これをA0と呼ぶ。その右の[シ]がB0だ。
3番目の白鍵が[ド]で、ここからC1,D1,E1・・・と続く。
次のオクターブがC2,D2,E2・・・で、ピアノの最高音はC8だ。

人間が音程として捉えられる範囲は、このA0~C8くらいだと言われている。
実際、ピアノの一番高いオクターブでメロディーを弾いてもよく聴き取れない。

ベースの開放弦はこの音。(ピアノの低音はベースよりも低い)


ギターの開放弦はこんな感じ。
 

1弦22フレットをチョーキングして出る最高音がE6くらい。
ピアノは更にその上に2オクターブくらいある。

A0~C8がどのくらいの音なのか実感して貰えたと思うが、さて、ハモンド・オルガンはと言うと、基準音の8フィートのバーがC2~C7なので、下図の青の部分となる。


前回説明したように、4フィートのドローバーを引き出して出る音はそのオクターブ上なので緑色の部分,2フィートは2オクターブ上なので黄色の部分,1フィートは3オクターブ上の赤色の部分となる筈だ。
もしそうだとすると、図のように、ハモンドの音域は理論上はピアノの最高音(人間が音程として捉えられる範囲)を2オクターブも越えていることになる。

さて、ここからが本題で、実際にはどんな音が出るのか実験してみよう。

4フィートのバーだけ引いて、一番左の[ド]から順番に音階を弾いてみると、ちゃんと8フィートの1オクターブ上の音で音階が鳴る。
一番右の鍵盤を弾いて出る音はピアノの最高音と同じC8ということになる。

今度は2フィートのバーだけ引いて、一番左の[ド]から順番に弾いてみる。
8フィートの2オクターブ上なので、一番右の[ド]のオクターブ下の[ド]を弾いた時に、すでに最高音のC8が出ている。
この先に進んでも(つまりピアノの最高音を越えても)ちゃんと音程が出る。

ところが、[ソ]の所で異変が起こる。何と、急に音が1オクターブ下がるのだ。
楽譜で書くとこんな感じだ。


これはハモンドが故障しているのではなく、「ある高さを越えると1オクターブ下の音が鳴る」という仕組みになっているのだ。
これをフォールドバック(折り返し)と呼ぶ。

1フィートで試すと、2フィートの時よりオクターブ低いGでフォールドバックし、その先のGでもう一度フォールドバックする。
こんな感じになる。


ハモンドというのはF#8が最高音で、それを越えた音はオクターブ下の音が出る仕組みになっている。
低音についても同様で、16フィートは下オクターブがフォールドバックして、1オクターブ上の音が出る仕組みだ。
これは、「人間の耳に聞こえない音」を出す代わりに、「聞こえる」音を出してやることで、高音が薄くなるのを防ぎ、低音を引き締める役割をしているのだ。

このフォールドバックの仕組みはハモンド独特のものだ。
VK8やSK1は、ハモンドを再現した楽器なので、当然フォールドバック機能を持っているが、シンセのハモンド音や、スピネット・オルガン(鍵盤数の少ない2段鍵盤の家庭用ハモンド)にこの機能はない。

シンセで「ドローバー全部出し」のプリセットで演奏をしていると、高音部になると急に音が薄くなるという現象が発生する。
たとえて言うと、3人がユニゾンで歌っていて、1人が高い音で声が出なくなったので歌うのをやめてしまって2人で歌っているという状態だ。
フォールドバックの方は、声が出なくなったらオクターブ下げて歌い続けるという方法なので、3人分という音の厚みは変わらないという訳だ。

実際には2フィートや1フィートだけを引き出して演奏することはなく、下の方のフォールドバックしないドローバーと一緒に鳴らすので、よほど注意深く聞いていない限り「あっ、今フォールドバックしたな」と気付くことはない。
ハモンド(クローン・ホイール)を持っている人の中でも、フォールドバックを知らない人がいたりするのは、フォールドバックというのが、弾いている人にさえそれを気付かせないくらい自然な仕組みだということだ。

前回に引き続き、ハモンドは他の楽器にはない独特の仕掛けを持っている楽器だということが解って頂けただろうか?

次回は、鍵盤を弾いた時に鳴る「コン」という音について解説する。(えっ!まだ次回があるのか?)

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